その研究所員の言い分


超精密計測がひらく世界高精度計測が生み出す新しい物理

計量研究所 (編集)

この本は私が1年前、産総研計測標準研究部門(旧計量研究所)に入所したとき、新人歓迎会の賞品としてもらった。

重さ、長さの標準というものは貿易、流通に必要不可欠である一方、その計測の精密さを極めることによって、今まで見えてこなかった物理現象が目の前に現れてくる、という面白い世界だ。

標準の重要性のために本部門は研究所の中でも“聖域”のようになっていて、新入所員は任期無し、競争的研究資金を取りに行く必要もないほどの研究交付金が与えられる。

その待遇とは裏腹に、標準整備の業務の多さのために発表される論文の数は他の部門に比べ少なく、自分の研究が出来なくて悩んでいる研究者が多い。いわば一番マネージメントが難しい研究部門かもしれない。

基礎研究が活発ではない分、計測技術に関しては大学、企業にとっくに追い抜かれている分野も少なくない。現状では「俺たちが標準だ!」といったところで「良い研究論文を出していないところの標準が信じられるか?」といわれれば、言い返す言葉もないだろう(その点で、米国の標準研NISTは基礎研究が盛んでうまく説得力をキープしている)

標準というものは計測技術とともに進化して行かなくてはならない。「自分たちが標準」と言い切るだけのトップの計測技術をアピールして行かなくてはいけないのであるが、如何にその状態に持って行くかが今後の課題であろう。

小飼弾氏のブログ

http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/50777910.html

私はこの測定が大の苦手で、だから本書に出てくる極限の測定世界とかを見ると、もう出るのはためいきばかり。原理は頭でわかっても、もう手が全然ついてこない。縁あって日本標準時の原子時計の現物も見学させてもらったことがあるのだけど、もうこの世界は出るのはためいきばかり、いやためいきも計測誤差の理由となるので禁物というもうそういう世界。

計量というのは、文明の軸のようなものだと思う。これの精度が上がったおかげで、文明の輪の回転がどれだけスムーズになったことか。それでいて、ぶれてないなければその恩恵を感じることすら出来ない。ちょっとトウが立っているけど、そういった世界があるということを知るだけでも価値のある一冊。

確かにトウが立っている。ナノテクというデバイスが動いてなんぼ、の世界の標準整備という自分のミッションのためには、大胆なパラダイムシフトが必要だと感じている今日この頃です。

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